ミラー
ミラー
「それはおかしくもなります。人でなし? 人でなしである怪物は貴方達でしょう? 『プレディクト』を含めてね」
モニターの映像では、幸一は再びフランクにナイフで切りかかっている。
「……どういう事?」
「貴女も見たでしょう、あの金銀妖眼を。彼が説明していたでしょうが、彼には不思議な力がありましてね」
森野はモニターに顔を戻す。フランクが放った裏拳を、間一髪で幸一がかわし、左太腿にナイフを突き立てる。
「どうして、彼はあんな接近戦をしかけるのだと思います? 最初の攻防では失敗しましたが、紙一重で攻撃をかわせるのだと思います? 常人なら一発もかわせませんよ?」
肩を震わせる森野の眼には、形容し難い狂気が憑りついていた。
「そうです、彼の持つ能力は、あの青い瞳に映る数秒先の未来予測。スイス連邦特殊警察、対遺伝子操作兵機関『パルス』に所属する彼につけられたコードネームが『プレディクト』。能力を踏まえてつけられた名でしょう。まあ、最初の攻防でわかるように、百発百中でその力が発動する訳ではなさそうですね。無意識下で発動するものでしょうが……それでもこのサンプルを捕獲し、売りつけることが出来れば、私の株も随分上がります」
ひとしきり哄笑すると、今度はマナにその顔を近付ける。
「ほら、彼も立派な化物です。同族として、嬉しいですか?」
マナはその顔に、ツバを吐きかけた。
「……私が見てきた人の中で、一番醜いのは貴方よっ!」
「それはどうもありがとうございます」
賞賛されたように笑みすら貼り付け、森野は再びモニターに眼を戻す。
すでに何度このナイフで切りかかっただろうか。しかし、M13には実弾は入れていない。実弾なら一撃でフランクを止められるだろうが、直径十三ミリの弾丸を受ければ、腕の一本は吹っ飛んでもおかしくない。
べレッタやリボルバーの弾丸では貫通力が低すぎる。残された道は、接近戦しかなかった。
次々と振り下ろされる戦斧と、巨大な拳。四階の床はすでに原始の地球のようにクレーターだらけだ。
(でも……最初に受けた攻撃は、やっぱりキツかったな……! 動きが、明らかに鈍ってる!)
最初に攻撃を受けたのは、しかたない。どうしても、受ける必要性があったのだ。
距離を取ろうとするが、その度にフランクは猪のように吶喊を仕掛けてくる。
幸一は身を捻り、避けた際にカウンターの要領でナイフを一閃。フランクの左肘に薄い傷が出来る。
振り返り様、幸一はナイフを大腿部の鞘に戻し、回転式拳銃を取り出す。中には、ホローポイント弾。対テロ特殊部隊が用いる、極めて殺傷能力の高い弾丸。
銃声は一つ。だがフランクに放たれた弾丸は四つだった。撃発と同時に撃鉄を上げて機関銃のフルオート射撃並みの速射を可能とする高等技術、連発射撃。
苦悶に顔を歪めるフランクの四肢からは、鮮血が撒き散らされている。その隙に黒い影が彼の腕を掻い潜り、背後に回りこむ。
背中に取り付き、幸一はフランクの頚動脈を手際よく締め上げる。フランクはリーチのある腕で幸一をつかみ取ろうとするが、四肢に打ち込まれた弾丸のせいでうまく腕が動かない。
一分程で、フランクの巨体は意識を失い、地に崩れ落ちた。
脈がある事を確認し、幸一は申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんなさい……フランクさん」
