ホローポイント
ホローポイント
「……殺傷能力の高いホローポイント弾を要求し、しつこくナイフで切りかかったのは、この為だったんですか」
てらいのない感嘆を森野はあげた。
「……森野さん、ホローポイント弾、とは?」
「対テロなどで軍が用いる、特殊な弾丸ですよ。命中すると弾頭が拡張し、体内を引き裂いていきます。拡張していく弾丸で貫通力が弱まるので、その弾丸は大概、体内に留まります。極めて殺傷能力の高い弾丸ですよ」
得意げに知識をひけらかす森野に対し、大沢は理解しかねるというように再度尋ねる。
「……貫通力が弱まるのでは、殺傷力は低くなるのでは?」
「いいえ。意外かもしれませんが、体内に弾丸が残った方がダメージは大きいのです。それはあのサイの化物が証明しているでしょう? 我々が用いた強装弾は数十発で彼を行動不能にしましたが、今回のホローポイント弾は、打ち込んだ箇所もありますが、四発で効果をあげましたからね」
だからこそ、幸一はナイフでフランクの皮膚に傷を作り、その傷目掛けて銃弾を見舞ったのだ。貫通力の低いホローポイント弾ではフランクの極厚の皮膚は貫けない。だが、傷を作ってやり、そこに撃ち込めば……。
出来る限り、フランクを傷つけないよう、戦闘不能にするには、こうするしかなかったのだ。
「まあ、彼が、遺伝子操作兵とはいえ、ろくに戦闘訓練を受けていないあの化物に、こうも時間をかけたのは少々意外でしたが、まだ四時半ですから許容範囲内です。それに、『プレディクト』はかなりのダメージを負った模様ですしね」
モニターの向こうでは、幸一が胸を抑え、血を吐き出している。最初の攻防でフランクの拳を受けた代償だ。
マナは青い顔を蒼白にし、その光景に食い入っている。
『ご苦労様です。では、港に出てきてくれませんか』
森野はマイクを取り、悪意をたたえた声で要求を突きつけた。
幸一は自分の足元のフランクに眼をやり、苦渋の色を浮かべていた。今、フランクを放置すれば、無力化した意味がなくなる。
『別にいいですよ? こちらにはもう一人、人質がいるのですから』
この声に、幸一は観念したように、壁に寄りかかりながら前進を始めた。
痛む体に鞭打ち、幸一は港の潮風に身を晒す。眼前には銃器を掲げた人間三十人。
マナは、その中の二人の人間に組み伏せられていた。身体の自由が利かないらしい。
「ご苦労様です、『プレディクト』。一応、警告しておきますが、怪しい行動を取った場合、彼女には速やかに死んで頂きます」
「…………」
幸一は何も言わない。ただ無言で、青ざめた唇を恐怖に耐えるよう噛み締め、骨にひびの入っているであろう左腕を右手で押さえている。
そして、用心深く三名の組員が前に進み出た。手にしているのは注射器。
「貴方には、しばらく眠って頂きます」
ジリジリと近寄る組員にも警戒の色を示さず、幸一は無言。
さすがにこの状況で落ち着き払っている幸一を、森野をはじめとした数名が不審に思った。
その時、爆発が起こった。港から二百メートル西方、民家の無い場所が何の前触れも無しに爆発を起こしたのだ。続けて、今度は東、北、南……。
微かに揺れる地面同様、動揺がはしった組員達だったが、森野と大沢だけは冷静だった。
「野郎共、慌てるんじゃねえ!」
「冷静に対処なさい!」