腰
腰
「ど、どうしたの?」
「そ、その……こ、腰が、抜けてます……」
情けないその顔に、マナは思わず吹き出した。幸一はひたすら俯き、顔を赤らめている。
「ご、ごめんなさい……え、えーと、そのぉ……と、とりあえず、腕は動くんで」
「いいじゃない。あの連中は皆いなくなったようだし……サイレンが聞こえてるから、救急車か消防車が来るまで、のんびり待ってても……あっ!」
「え? な、なんですか?」
背に受けた暖かさで気付いたのだろうか、マナは首だけ後ろに向ける。
「キレイですね」
「うん、キレイだね」
マナはごろんと寝返りをうつ要領で幸一の脇により、昇ったばかりの朝日を見つめる。
「あの……太陽は、大丈夫ですか?」
「少しくらいなら、大丈夫だよ。短時間なら皮膚も爛れないし」
そう言って、マナはじっと幸一を見つめた。
幸一はそこで、ようやく自分の右眼の存在に気付き、顔を伏せた。
「あ、あの、その、これは……」
「もうちょっと良く見せてよ。せっかくキレイな眼なんだから」
その一言を、幸一は呆けたように聞き入った。
皆が忌み嫌う中、たった一人だけ、この眼をキレイだと言った人。
(胸を張りなさいよ、コウ。とってもキレイな眼なんだから)
自分に残された、たった一人の肉親。
傷つけてしまった、最愛の姉。
「ちょ、ちょっと、どうしたの? 幸一君?!」
「すいません……ちょっと、嬉しくて……少し、哀しくて……」
突然泣き出した幸一を、マナは困惑の眼で見つめ……次いで、何も言わずに肩を貸す。
潮の香りが漂う中、昇った朝日が波に反射され、宝石のような輝きを放つ。
凍れる夜の終わりと、泡のように脆い日常に帰ってきた事を、それは静かに告げていた