沢渡郁也
沢渡郁也
「沢渡郁也、自殺……大沢組組長、緊急逮捕、か」
幸一は読み終えた新聞を畳んだ。
彼は、入院生活を余儀なくされた。何しろフランクの拳を受けた為に、右腕と左腕にはヒビが入り、右足の骨に至っては、マナに組み伏せられた際に、いつの間にか折れていたらしい。肋骨は四本も折れていた。しかもその内の一本は、もう少しで肺に刺さっていたかもしれないという、危険な状態だったのだ。しばらくは絶対安静だそうだ。
もっとも当初は、銃器を所持していたので一悶着があり、警察病院で世話になった……そこはスイス連邦特殊警察の身分証明書と、日本政府からの銃器所持使用許可証があったので、事無きを得たが。
ドアノブが回り、扉が開いたのを見て幸一は顔を綻ばせる。
「起きているかね、木一君?」
「ヤッホー、コウ君! プリント持ってきたよっ!」
ジェス、ロザリアの二人は続け様にそう言った。
「で、傷の具合はどうかね?」
椅子に腰掛けたジェスは開口一番、容態を尋ねる。
「え? 順調ですよ。あと……一ヶ月……ぼく、ちゃんと単位取れるのかな?」
不安そうに呟く幸一を尻目に、ロザリアは手に花束を持ったまま、花瓶置きの上に無造作に置かれた花束に目を向けた。
「あれ? その花、誰が持ってきたの?」
質問に、幸一の目線が泳ぐ。実は二人が来る前に、沙紀が無言で花だけを置いていったのだ。しかし、その送り主を口に出してもいいものかどうか。
「え、えーと、実はクラスメイトが来てさ」
「そうなんだ。じゃ、ここに花瓶もあるし、持ってきた花と一緒に活けてくるねぇ♪」
元気良く返事したロザリアが病室を出て行ったのを見計らい、幸一はジェスに尋ねる。
「あの……そう言えば、フランクさんは?」
マナとフランク、そしてジェスも結構な傷を負ったのだが、やはり三人とも並みの回復力ではなかった。三人はたった三日で退院出来るまでに回復したのだ。
「すまん、遅れたぜ!」
病室のドアが勢い良く開けられた。誰がそんなに食べるんだと聞きたくなるような量の果物を、かご一杯に入れている。
「……悪いな。オレがもっとしっかりしてりゃ、こんな事には……すまん、幸一」
ガックリと肩を落とすフランクに、幸一は慌てて両手を振る。
「そんな! だ、第一、ぼく、フランクさんにかなりひどい傷を負わせたんですよ?!
「まあ、お互い様という所だろう」
二人の沈む気持ちを抑えるよう、ジェスが取り成した所で、フランクが何か思い出したようにその手を叩く。
「おお、忘れる所だったぜ。ほれ、長谷部のプリント」
フランクがバッグから取り出したのは、プリントの束を突きつける。
その束から、現実逃避するように幸一は眼を逸らし、頭を抱える。一回出なかっただけでチンプンカンプンになる授業だ。これから一ヶ月もの間、出席出来ないのに……倫理学の単位取得は、絶望的だ。
ロザリアが戻ってきたのを見計らい、三人は少しばかり大学の現状を話すと帰っていった。これから訪れる客人に、彼等なりに配慮したのかもしれない。
陽が落ち、病室が影で満たされると、扉がゆっくり三度ノックされた。
……もう、彼女を見ても、意識を失うことはないだろう。
「どうぞっ!」
今日一番元気の良い声をあげ、幸一はマナを出迎えた。